災害時の「防災情報」、なぜ全員に届かないのか?気候変動と情報伝達の壁
気候変動で増える災害に備えるための大切なこと
近年、テレビやニュースで「観測史上最大の雨」「記録的な暑さ」といった言葉を耳にすることが増えました。これは、地球全体の気候が変わってきている、つまり「気候変動」が原因の一つと言われています。気候変動が進むと、これまでは考えられなかったような強い雨や、長い期間続く暑さなど、様々な災害が私たちの暮らしに影響を与える可能性が高まります。
災害が起きそうな時や起きた時には、私たちの命や安全を守るための「防災情報」がとても重要になります。しかし、この大切な情報が、住んでいる場所や年齢、インターネットの利用状況などによって、すべての人に同じように届いているわけではない、という現状があります。
この記事では、なぜ気候変動で災害が増えるのか、そして、なぜ災害時に防災情報が届きにくい人がいるのか、その背景にある「情報伝達の壁」について、分かりやすくお伝えします。
気候変動が災害にもたらす変化
気候変動というと、遠い国の話のように感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちの身近な場所でも、少しずつ変化が見られるようになりました。
- 大雨の降り方が変わる: 短時間に、非常に強い雨が降る回数が増える傾向にあります。これにより、これまで水害の心配が少なかった地域でも、急に川があふれたり、低い土地が水につかったりする危険性が高まります。
- 気温が高くなる: 夏の暑さが厳しくなり、熱中症の危険が高まります。特に、長く続く暑さは、体に大きな負担をかけます。
- 台風が変わる: 一部の地域では、台風の勢いが強くなったり、予想しにくい動きをしたりすることがあります。
このような変化により、私たちはこれまで以上に、いつどこで災害が起きるか分からない状況に備える必要が出てきています。
災害時の「防災情報」とは?
災害から身を守るためには、状況を正しく知ることが最初のステップです。そのために役立つのが「防災情報」です。
防災情報には、様々なものがあります。
- 気象情報: 大雨警報、洪水警報、熱中症警戒アラートなど、天気の危険を知らせる情報です。
- 避難に関する情報: 避難指示など、どこへ、いつ避難すれば安全かを示す情報です。
- 被害状況の情報: どこでどのような被害が起きているか、道路の通行止め情報などです。
- ハザードマップ: 住んでいる地域で、どのような災害の危険があるかを示した地図です。
これらの情報は、テレビ、ラジオ、インターネットのウェブサイトやアプリ、自治体からの連絡(広報車、防災無線、ショートメッセージサービスなど)、地域の人の声かけなど、様々な方法で伝えられます。
なぜ、防災情報が届きにくい人がいるのでしょうか?
このように様々な手段で伝えられる防災情報ですが、残念ながらすべての人に、必要な時に、必要な形で届くわけではありません。そこにはいくつかの「壁」が存在します。
1. 情報を受け取る手段の壁(デジタルデバイド)
インターネット、特にスマートフォンの普及は目覚ましいですが、誰もが同じように使えているわけではありません。
- 高齢者の方: スマートフォンやパソコンの操作が難しく、インターネットでの情報収集に慣れていない方がいらっしゃいます。
- 経済的に困難な方: スマートフォンを持てなかったり、通信費を負担することが難しかったりする場合があります。
- インターネット環境が不十分な地域: 山間部など、地域によってはインターネットの回線が不安定だったり、整備が進んでいなかったりします。
このような状況にあると、インターネットやスマートフォンのアプリで提供される最新の、そして詳しい防災情報にアクセスすることが難しくなります。
(図のイメージ: 人がパソコンやスマホを使っている横で、別の人がテレビやラジオを聞いている図。情報が流れる線が、パソコン・スマホの方へ太く、テレビ・ラジオの方へ細くなっているイメージ。)
2. 情報の内容や形式の壁
情報が届いたとしても、その内容が理解しにくい場合があります。
- 専門用語が多い: 気象用語や、災害に関する専門的な言葉が使われていると、意味を理解するのが難しいことがあります。
- 文字ばかりで分かりにくい: 図やイラストが少なく、文字だけで状況を説明されても、頭の中でイメージしにくいことがあります。
- 情報の量が多い: 災害時には多くの情報が飛び交い、自分に必要な情報がどれなのかを見つけ出すのが大変になることがあります。
特に、高齢者の方や、日本語があまり得意でない外国人の方、あるいは情報を受け取ることに困難がある方にとっては、これらの壁がさらに高くなります。
3. 地域社会とのつながりの壁
かつては、地域の回覧板や隣近所の声かけによって情報が伝わることも多くありました。しかし、核家族化や人の入れ替わりなどにより、地域社会のつながりが薄れている場所もあります。
- 近くに住んでいる人との交流が少ないと、もしインターネットやテレビが見られなくても、人づてに情報を得る機会が減ってしまいます。
- 一人暮らしの高齢者の方などは、災害時に孤立しやすく、必要な情報や支援が届きにくくなる傾向があります。
このように、情報を受け取る手段、情報の内容、そして地域社会のつながりなど、様々な要因が組み合わさることで、特定の層の人々、特に高齢者の方や一人暮らしの方、インターネットの利用に慣れていない方などが、災害時に必要な防災情報から取り残されてしまうリスクが高まるのです。
情報が届かないことの深刻な影響
防災情報が適切に届かないことは、命に関わる深刻な結果を招く可能性があります。
- 避難の遅れ: 危険な場所にいることに気づかず、避難の指示が出たことにも気づかないため、避難が遅れてしまい、命の危険にさらされる。
- 適切な行動が取れない: どこに避難すれば安全か、どのように行動すれば良いか分からず、誤った判断をしてしまう。
- 孤立: 災害発生後に、地域や支援機関からの情報や安否確認から漏れてしまい、孤立した状況に置かれる。
気候変動により災害のリスクが増す今、このような「情報格差」がもたらす不公平は、単なる不便さではなく、まさに安全や命に関わる重要な課題となっています。
この不公平をなくすために、地域で考えたいこと
防災情報がすべての人に公平に届くようにするためには、私たち一人ひとりの意識と、地域全体の取り組みが大切になります。
- 複数の情報伝達手段を組み合わせる: テレビやインターネットだけでなく、ラジオ、広報車、防災無線など、様々な手段で情報を確認する習慣をつけましょう。
- 地域の情報を確認する: 自治体のウェブサイトや広報誌、地域の掲示板などで、ハザードマップや避難場所、避難に関する情報を日頃から確認しておきましょう。分からないことは、役所や詳しい人に尋ねてみるのが良いでしょう。
- 地域のつながりを大切にする: 近所の人と日頃からあいさつをしたり、困った時に声をかけ合える関係を作っておいたりすることが、いざという時の助けになります。
- 情報伝達の訓練や学びの場を持つ: 地域の防災訓練に参加したり、スマートフォンやインターネットでの情報収集の仕方を学ぶ機会を設けたりすることも有効です。
- 「あの人は大丈夫かな?」と気にかける: 一人暮らしの高齢者の方や、情報が届きにくいかもしれない方など、周りの人に意識を向け、「何か困っていることはないですか?」と声をかけてみることも、地域全体で命を守る大切な行動です。
(図のイメージ: 家や人が複数あり、それぞれにテレビ、ラジオ、スマホ、人づてなど、複数の情報伝達の線が色々な方向から伸びているイメージ。一本の線だけでなく、複数の線が繋がっていることで、情報が届きやすくなっていることを示す。)
まとめ
気候変動が進むことで、私たちの地域社会はこれまで以上に災害のリスクにさらされる可能性があります。そして、災害から身を守るための重要な「防災情報」は、残念ながらすべての人に公平に届いているわけではありません。高齢者の方やインターネットの利用に不慣れな方など、情報を受け取る上で様々な壁に直面しやすい方々がいます。
この「情報格差」は、災害時の安全や命に直接関わる深刻な不公平です。地域全体で、多様な情報伝達手段を組み合わせ、お互いに声をかけ合い、助け合うことで、情報がすべての人に公平に届くように努めることが、気候変動時代における大切な防災の取り組みとなります。
ご自身の情報収集の方法や、周りの方の状況について、改めて考えてみる機会となれば幸いです。