気候変動の情報、なぜ「届く人」と「届かない人」がいるのか
はじめに
近年、テレビや新聞、インターネットなどで気候変動に関する情報を目にすることが増えました。地球温暖化の影響で、大雨が増えたり、猛暑日が続いたりといった異常な天候を、私たちの周りでも感じることがあるかもしれません。
こうした気候変動について「もっと知りたい」「自分の地域はどうなるのだろう」と思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、インターネットにはたくさんの情報があるものの、「難しそう」「専門用語ばかりで分からない」と感じたり、そもそもどうやって情報を探せば良いのか分からなかったりすることもあるかもしれません。
実は、このように気候変動に関する情報への「アクセスしやすさ」や「理解しやすさ」にも、人によって違いがあります。そして、この「情報の差」もまた、気候変動が特定の人たちに偏って影響を与える「不公平」の一つと考えることができます。
この記事では、なぜ気候変動の情報が「届く人」と「届かない人」がいるのか、その理由と背景について、分かりやすくご説明します。
気候変動の情報へのアクセスが難しいのはなぜ?
気候変動に関する情報は、様々な形で提供されています。国や自治体のウェブサイト、ニュース記事、専門家による解説、研究論文などがあります。しかし、これらの情報に誰でも同じようにアクセスできるわけではありません。
インターネットの利用の差(デジタルデバイド)
最近の情報は、インターネット上に公開されているものが非常に多いです。例えば、自分が住む地域の洪水ハザードマップや、自治体が発表する災害時の避難情報なども、インターネットで確認することが一般的になっています。
しかし、ご高齢の方や、普段あまりインターネットを利用しない方、スマートフォンの操作に慣れていない方にとっては、こうした情報に自分でたどり着くことが難しい場合があります。インターネット環境がない、あるいは利用料金の負担が大きいという場合もあります。
このように、デジタル機器やインターネットの利用スキル、環境の違いによって生じる格差を「デジタルデバイド」と呼びます。デジタルデバイドは、気候変動に関する最新の情報や、自分の身を守るための情報を得る上での大きな壁となることがあります。
情報そのものの難しさ
気候変動に関する情報は、科学的な予測や難しいデータに基づいていることが少なくありません。「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」のような国際的な専門機関の報告書などは、非常に専門的な内容が含まれています。
ニュース記事などでも、専門用語がそのまま使われたり、数字やグラフが多くて分かりにくかったりすることがあります。「〇〇度上昇」「〇〇年の排出量」といった言葉や数字が、自分の生活とどう関係するのか、ピンとこないこともあるかもしれません。
情報を発信する側が、受け取る側の知識レベルや関心を十分に考慮していない場合、情報は一方通行になり、本当に伝えたいことが伝わらないという問題が起こります。
地域ごとの情報提供の偏り
気候変動の影響は、地域によって大きく異なります。沿岸部では海面上昇や高潮のリスクが高い一方、山間部では土砂災害や河川の氾濫が懸念されます。そのため、地域ごとに必要な情報も違ってきます。
しかし、すべての地域で、その地域特有の気候変動リスクについて、住民が必要とする形で情報が提供されているとは限りません。大きな災害が起こった後には情報が増えることもありますが、平時から継続的に、地域の特性に合わせた分かりやすい情報を提供することは、多くの自治体にとって課題となっています。
かつては、地域の集会や回覧板などを通じて、住民同士が顔を合わせて情報を共有する機会が多くありました。しかし、近年は地域コミュニティのあり方も変化し、こうしたアナログな情報伝達の機会が減っている地域もあります。
情報格差が生まれる背景
なぜ、このような情報格差が生まれてしまうのでしょうか。いくつかの背景が考えられます。
- 情報技術の急速な進歩: インターネットやスマートフォンは便利ですが、その進化についていくのが難しいと感じる方もいます。新しい技術が登場するたびに、それに慣れている人とそうでない人との間に差が生まれます。
- 情報提供側の課題: 国や研究機関などが持つ専門的な知見を、一般の人々に分かりやすく伝えるための工夫や予算が十分でない場合があります。専門家が一般向けに話す機会も限られているかもしれません。
- 社会的なつながりの変化: 地域社会での人々のつながりが薄れると、情報が人づてに伝わりにくくなります。「隣の人が困っている情報を教えてくれる」「集会で説明を聞ける」といった機会が減ることも、情報が届かない一因となります。
例えば、自治体が新しい避難所の情報をウェブサイトに掲載しても、その情報が必要な人、例えばお一人暮らしのご高齢の方に、その情報が届かないという状況が起こり得ます。これは、単にインターネットを使えないという問題だけでなく、情報がどのように作られ、どのように届けられているか、そして地域の中でどのように情報が共有されるか、といった様々な要因が絡み合って起こる問題です。
(図のイメージ:中心に「気候変動情報」があり、そこから四方に情報の矢印が伸びている。矢印の先に様々な人々のシルエットが描かれている。しかし、高齢者やネットを使わない人のシルエットへ向かう矢印は細かったり、途中で途切れていたりする。矢印の途中には「専門用語の壁」「ネット環境の壁」「地域性の壁」といった障害が描かれている。)
情報の「不公平」をなくすために
気候変動の影響から自分の身や大切な人を守るためには、適切な情報が必要です。そして、その情報が必要な人、特に気候変動の悪影響を受けやすい立場にある人にこそ、分かりやすく、確実に情報が届くようにすることが大切です。
これは、国や自治体などの情報を提供する側の責任でもあります。インターネットだけでなく、テレビ、ラジオ、新聞、広報誌、そして地域の集会や戸別訪問など、多様な方法で情報を提供することが求められます。専門的な内容は、図やイラスト、具体的な事例を交えて、誰にでも理解できるよう工夫する必要があります。
また、私たち一人ひとりや地域コミュニティもできることがあります。例えば、近所の人に自治体からの大切なお知らせを伝えたり、スマートフォンやインターネットの使い方を教え合ったりすることです。地域の特性に応じた防災マップを一緒に作成したり、災害時の連絡方法を話し合ったりするのも良いでしょう。
まとめ
気候変動は、私たちの暮らしや地域社会に様々な影響を与えます。そして、その影響の大きさは、住む場所や年齢、経済的な状況などによって偏ることがあります。気候変動に関する情報へのアクセスや理解のしやすさもまた、このような「不公平」の一つとして考えることができます。
情報が適切に届かないことで、必要な対策が遅れたり、災害のリスクが高まったりする可能性があります。すべての人々が、自分の地域に起こりうる気候変動の影響や、身を守るための対策について、分かりやすい形で情報を受け取れるようにすることが、環境正義を実現する上で非常に重要です。
この記事が、気候変動に関する情報について考えるきっかけとなれば幸いです。