気候変動で家を守るには?:耐水・断熱リフォームの必要性と、お金が負担になる人たち
はじめに:気候変動は家にも影響を与えています
近年、日本でも大雨や台風が強くなったり、夏が非常に暑くなったりすることが増えています。こうした気候の変化は、私たちの普段の暮らしだけでなく、「家」にも少しずつ影響を与えています。
例えば、以前よりも強い雨が降ることで、雨漏りが起きやすくなったり、家の土台に水が染み込みやすくなったりすることが考えられます。また、夏の暑さが厳しくなることで、家の中が我慢できないほど暑くなり、冷房を使ってもなかなか冷えないといった問題も起きています。
これらの問題から家を守り、安全で快適に暮らすためには、壁の断熱をしっかり行ったり、窓を二重にしたり、雨水が入り込まないように対策をしたりといった「家の改修(リフォーム)」が必要になる場合があります。
しかし、このような家の改修には、まとまったお金がかかります。そして残念ながら、この改修にかかる費用が、住む人によっては大きな負担になり、必要な改修ができないといった不公平な状況が生まれています。
この記事では、気候変動が私たちの家にどのような「備え」を求めているのか、そして、なぜその「備え」にかかる費用が負担になる人がいるのかについて、分かりやすくご説明します。
気候変動があなたの家に求める「備え」とは?
気候変動が進むことで、私たちの家はこれまで以上にいくつかのリスクにさらされることになります。具体的には、次のような影響が考えられます。
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強い雨や台風が増えることによる影響 大雨や台風が頻繁に起こるようになると、屋根や外壁からの雨漏りが起きやすくなります。また、家の周りの地面が大量の雨水を含み、家の土台に影響を与えたり、低い場所にある家では浸水したりする可能性も高まります。家を守るためには、屋根や外壁の防水性を高めたり、家の周りの排水設備を見直したりといった対策が必要になることがあります。
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猛暑が深刻化することによる影響 夏の気温が上がり、熱波が続くようになると、断熱が不十分な家の中は非常に暑くなります。特に高齢の方やお子さん、病気のある方にとっては、家の中にいても熱中症になる危険性が高まります。天井や壁に断熱材を入れたり、断熱性の高い窓に交換したりすることで、家の中の温度上昇を抑え、快適に過ごせるようにする対策が求められます。
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湿度の変化やカビの発生 気候変動は湿度のパターンも変える可能性があります。湿度が高い状態が続くと、家の中にカビが発生しやすくなります。カビは家の建材を傷めるだけでなく、住む人の健康にも悪影響を与えます。適切な換気システムの導入なども、対策の一つです。
これらの気候変動による影響から家を守り、安全で健康に暮らすためには、家の一部を改修することが有効な手段となります。
なぜ、この「備え」にかかるお金が負担になる人がいるのでしょう?
気候変動に対応するための家の改修は、家を長持ちさせ、これからの暮らしをより良くするために役立ちます。しかし、残念ながら、誰もが同じようにこの費用を負担できるわけではありません。改修にかかる費用が、特定の家庭にとって重い負担になるのには、いくつかの理由があります。
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経済的な余裕の違い 家の改修には数十万円から数百万円といったまとまった費用がかかることがあります。 例えば、年金だけで生活している方や、非正規の仕事で収入が不安定な方など、日々の生活で精一杯という家庭では、このような大きな出費に対応するのが非常に難しいのが現状です。貯蓄が十分になかったり、年齢や収入の状況からリフォームのためのローンを組むことが難しかったりする場合もあります。 (イメージ図:同じ100万円の改修費用が、月収50万円の家庭と月収15万円の家庭にとって、どれだけ負担の大きさが違うかを示すような図)
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家の状態や築年数 築年数が古い家や、これまであまり手入れができていなかった家は、一度にたくさんの改修が必要になる可能性が高く、その分費用もかさみます。また、古い家では、現在の建築基準に合わせて耐震補強なども同時に行う必要が出てくる場合があり、さらに費用が増えることもあります。
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住んでいる場所の条件 海が近い、大きな川のそば、傾斜地など、もともと自然災害のリスクが高い場所に建っている家では、より専門的で費用のかかる対策(高床式にする、特別な防水工事をするなど)が必要になる場合があります。また、お住まいの自治体によって、気候変動対策や防災のための住宅改修に対する補助金の制度があったりなかったり、内容が違ったりすることもあり、利用できる支援に差が出ることがあります。
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必要な情報へのアクセス どのような改修が必要なのか、信頼できる業者をどうやって見つけるのか、利用できる補助金にはどのようなものがあるのかといった情報は、インターネットや専門の相談窓口などで得られることが多いです。しかし、こうした情報にアクセスするのが難しかったり、相談できる人がいなかったりする方もいらっしゃいます。特に高齢の一人暮らしの方などでは、必要な情報にたどり着けず、適切な改修の機会を逃してしまうことがあります。
このように、経済的な状況、住んでいる家の状態、地域の条件、そして情報へのアクセスしやすさによって、気候変動に備えるための「家の改修」にかかる費用が、特定の家庭に重くのしかかるという偏りが見られます。
この不公平は、暮らしにどう影響する?
必要な家の改修ができないまま気候変動の影響を受けることは、住む人の暮らしに様々な形で影を落とします。
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健康への影響 断熱が不十分な家では、夏の猛暑日に家の中にいても熱中症になる危険が高まります。冬場も、暖かい部屋と寒い部屋の温度差が大きくなり、ヒートショックを起こしやすくなります。また、雨漏りや湿気によるカビは、アレルギーやぜんそくなどの病気を悪化させる原因にもなります。家の状態が悪いことが、直接的に健康を損なうことにつながるのです。
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経済的な負担の増加 断熱性の低い家では、夏は冷房、冬は暖房を強く長く使う必要があり、電気代やガス代といった光熱費が高くなります。必要な小さな修繕を先延ばしにすると、後でもっと大規模で費用のかかる修理が必要になってしまうこともあります。結果として、目先の改修費用をかけられなかったことが、長期的に見ると家計に大きな負担をかけることになります。
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安全・安心が揺らぐ 大雨のたびに雨漏りや浸水の心配をしたり、強い風が吹くたびに家が傷まないか不安になったりすることは、日々の安心した暮らしを脅かします。災害リスクの高い地域で必要な対策ができていない場合は、いざという時に自宅で安全に過ごすことが難しくなり、避難が必要になるリスクも高まります。
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地域での暮らしの継続が難しくなる 住んでいる家が安全でなくなり、健康や経済面での負担が大きくなると、これまで住み慣れた地域での暮らしを続けることが難しくなる方も出てくるかもしれません。地域社会とのつながりから離れてしまう可能性も考えられます。
このように、気候変動に対応するための家の改修ができるかどうかは、単に住居の快適さだけでなく、健康、経済、安全、そして地域での暮らしの継続といった、生活の基盤そのものに影響を与えるのです。
まとめ:家と暮らしを守るために
気候変動の影響は、私たちの最も身近な場所である「家」にも及んでいます。大雨や猛暑から家とそこに住む人を守るためには、時には改修が必要になります。
しかし、残念ながら、この改修にかかる費用は、誰もが同じように負担できるものではありません。経済的な状況や住んでいる場所などによって、必要な改修が難しく、結果として健康を損なったり、経済的な負担が増えたり、災害への不安を抱えたりする人がいます。これは、気候変動がもたらす影響が、社会的に弱い立場にある人や特定の地域に偏って現れるという「環境正義」の問題の一つと言えます。
誰もが安心して安全な家で暮らせるようにするためには、個人の努力だけでは解決できない課題があります。必要な改修のための支援策を拡充したり、誰もが必要な情報にアクセスできるよう工夫したりと、社会全体でこのような費用の負担が偏らないような仕組みを考えていくことが重要です。
ご自身の家の状況や、お住まいの自治体でどのような支援制度があるかなどに関心を持つことも、この問題について考える第一歩となるでしょう。