気候変動で水が足りなくなる?地域の水資源の変化と、影響が偏る理由
はじめに:私たちの生活を支える「水」
蛇口をひねれば当たり前のように出てくる水は、私たちの暮らしに欠かせない大切なものです。飲み水としてはもちろん、料理や洗濯、お風呂など、毎日の生活で私たちはたくさんの水を使っています。また、地域の農業や工業、さらには美しい自然の景色を守るためにも、水はとても重要な役割を担っています。
しかし、最近ニュースなどで、雨が降らず川の水が減ったり、逆に急に激しい雨が降って洪水になったりする様子を見かけることが増えました。これは、地球全体の気候が変わってきていること(気候変動)と深く関わっています。
そして、この気候変動による水の問題は、すべての地域やすべての人に同じように影響するわけではありません。住んでいる場所や、その人の状況によって、水の利用が難しくなったり、余計にお金がかかったりするなど、影響の大きさが偏ってしまうことがあります。なぜ、気候変動による水の問題で、影響を受ける度合いが偏ってしまうのでしょうか。この記事では、その理由を分かりやすく説明します。
気候変動は「水」にどのような影響を与えるのか
気候変動が進むと、地球全体の平均気温が上がります。気温が上がると、雨の降り方や雪の降り方、そして水が蒸発する量が大きく変わってきます。
雨の降り方が極端になる
これまでのように穏やかに、必要な時に必要なだけ雨が降るということが少なくなります。 * 雨が降らなさすぎる時期: 長く雨が降らない「干ばつ(かんばつ)」が起こりやすくなります。川や湖の水が減り、水道の水が足りなくなる心配が出てきます。(図解イメージ:カラカラになった川底やひび割れた田畑) * 雨が降りすぎる時期: 短い時間に、バケツをひっくり返したような激しい雨(集中豪雨)が増えます。地面が水を吸いきれず、川があふれたり、低い土地が水浸しになったりします。(図解イメージ:急に水かさが増した川や、水につかる家並み)
雪が早く解けたり、そもそも雪が少なくなったりする
冬に雪が多く降る地域では、春になって雪がゆっくり解けることで、長い期間にわたって川に水が供給されてきました。これは、ダムのように水を貯めておく自然の働きでした。しかし、気温が上がると雪が降る量が減ったり、降ってもすぐに解けてしまったりします。 * 雪解け水の減少: 春から夏にかけて川を流れる水が減り、農業用水や生活用水の確保が難しくなる可能性があります。(図解イメージ:雪が積もらず岩肌が見えている山や、例年より水量の少ない川)
気温上昇で水の蒸発量が増える
気温が高くなると、地面や川、湖などから蒸発する水の量が増えます。これも、利用できる水が減る原因の一つとなります。
このように、気候変動は「水が足りなくなる時期」と「水が多すぎる時期」を極端にし、私たちの生活に必要な「ちょうど良い量の水」を保つことを難しくします。
地域の水資源に起きる具体的な変化
気候変動によって、地域ごとの水資源に次のような具体的な影響が出始めています。
川の水量や地下水の変化
雨の降り方や雪解けの時期が変わることで、川の水量や地下水の量がこれまでと変わってきます。夏に水が減りやすくなったり、特定の時期にしか水が流れなくなったりすることもあります。
水質が悪くなることも
気温が高くなると、湖やダムの水温が上がり、藻(も)が大量に発生して水が臭くなったり、飲用に適さなくなったりすることがあります。また、大雨によって地面の泥やゴミ、時には下水などが川に流れ込み、水の質が悪くなることもあります。
水道水の供給への影響
地域の水源(川、湖、地下水など)がこのような影響を受けると、私たちが使う水道水にも影響が出ます。雨が少ない時期には、水道の使用に制限がかかる「取水制限(しゅすいせいげん)」が行われたり、断水が起きたりする可能性が高まります。(図解イメージ:給水所に並ぶ人々)
なぜ、この水の問題で影響が「偏る」のか?
気候変動による水資源の変化は、すべての地域、すべての人に同じように降りかかるわけではありません。影響の受けやすさや、それに対応する難しさは、住んでいる場所やその人の状況によって大きく異なります。これが「環境正義」の視点から見た、水に関する不公平です。
1. 地理的な場所による違い
- 水源に近いか遠いか: 水源から遠い地域や、高台にある地域は、水が届きにくくなったり、配管の修繕などに費用がかかりやすかったりする場合があります。
- 低い土地や川の近く: 集中豪雨が増えると、水害の危険が高まります。家が浸水するだけでなく、水道施設が被害を受けたり、断水が長く続いたりするリスクがあります。(図解イメージ:水害で家が浸水している様子)
- 水源地の状況: その地域の水源地(川の上流、地下水脈など)が気候変動の影響を受けやすい地形や環境にあるかどうかによって、水の安定供給の難しさが変わります。
2. インフラ(水道管や施設)の新しさや丈夫さ
水道のパイプが古かったり、貯水する施設が十分でなかったりする地域では、少し水量が減っただけで影響が出やすくなります。古い水道管は水漏れも起こしやすく、せっかくの水が無駄になってしまうこともあります。新しい、丈夫な設備を持つ地域に比べて、水の安定供給が難しくなります。(図解イメージ:古い水道管から水が漏れているイラスト)
3. 経済的な状況による違い
- 水道料金の値上げ: 水不足への対策(新しい水源の開発、施設の修繕など)には、たくさんのお金がかかります。その費用をまかなうために、水道料金が値上げされることがあります。収入が少ない家庭にとっては、この値上げが大きな負担となります。(図解イメージ:水道料金の請求書を見て困っている人の横顔)
- 対策への投資: 水道施設の改修や、節水を促すための設備投資(節水型トイレなど)は、自治体の財政状況や個人の経済状況によってできるかどうかが変わります。財政が厳しい自治体や、収入の少ない家庭ほど、十分な対策が取りにくくなります。
4. 情報の届きやすさ
水不足が予測される場合や、断水・取水制限が行われる場合、自治体から住民への情報伝達が重要になります。しかし、インターネットやスマートフォンを使い慣れていない高齢の方や、地域コミュニティとのつながりが薄い方には、必要な情報がタイムリーに届かないことがあります。水に関する正確な知識(例:安全な水の備蓄方法、節水のコツ)も、情報にアクセスしやすい人とそうでない人で差が出ることがあります。
5. 個人の状況(高齢者や体の不自由な方など)
断水が発生した場合、給水所まで水を取りに行く必要があります。給水所が遠かったり、水を運ぶのが難しかったりする高齢の方や体の不自由な方にとっては、これは非常に大変な負担となります。(図解イメージ:重たい水の入ったポリタンクを持って歩く高齢者)また、熱中症のリスクが高まる時期に水が使えなくなることは、健康に直結する問題です。
まとめ:地域の水と不公平の問題に目を向けよう
気候変動は、私たちの生活に欠かせない「水」のあり方を確実に変えつつあります。そして、その影響は、住んでいる場所の地理的な条件、地域のインフラ、経済的な状況、情報の届きやすさ、そして個人の体力や状況によって、大きく偏って現れます。
「なぜか自分の地域は水が出にくい気がする」「水道代が上がって大変だ」と感じている方もいるかもしれません。それは単なる偶然ではなく、気候変動という大きな変化と、社会の中にある様々な不公平が組み合わさって起きていることかもしれません。
地域の水に関する問題に目を向け、なぜ特定の人や地域がより大きな影響を受けるのかを知ることは、「環境正義」を考える上で非常に大切です。私たちの暮らしを支える水を、すべての人にとって当たり前のものとして守っていくために、地域で何が起きているのかに関心を持つことが、その第一歩となります。